2月の春学期から体育の専門科目をとり始め、先生の話す英語をひろうのに疲労困憊の日々。でも、まったく興味のないショートストーリーを読まされるよりスポーツの歴史や現状を聞く方がよっぽどおもしろく、授業時間はあっという間に終わります。
その体育の講義で聞いたことですが、アメリカのフィットネスブームは1970年代に始まり、カリフォルニアはかなり後進の州だったそうです。それが今や最先端。カイロプラクティクのテリー先生は「とくに南カリフォルニアは健康志向が高い」と感じているといいます。ハリウッド女優やビバリーヒルズのセレブなど、“火付け役”の影響も大きいでしょうが、“より健康な生活”は、誰もがもつあたりまえの欲求なのです。柔軟な発想で新しいものを取り入れながら、次々と生まれくる人々のニーズを満たしていく。これは終わることのないムーブメントなのでしょう。
さて、そんなこの土地で最近気づいたのは、Yogaの4文字。車で探し回った限りですが、ハリウッド、ビバリーヒルズといった山の手からサンタモニカ、ベニス、マンハッタンとビーチ沿いをくだり、ロングビーチ、さらにはラグナ…と、比較的豊かで流行に敏感な人々が住む場所で、ヨガ・スタジオを見かける頻度が高くなります。中にはけっこう年季の入った看板もあり、にわかのはやりではないことは、たしか。日本では会社帰りのOLさんがヨガマットを肩からかけて歩いていますが、こちらではスクールバスを待つ女子高生までも、くるくる巻いたマットを抱えています。サンタモニカのプロムナードを歩いていると、ヨガグッズの専門店を発見。メンズ、レディースの下着、ボトムス、トップスなど色・型豊富なウエア類、バッグ、ドリンクボトル、ターバンなどのアクセサリやマット、ボール、ブロックといった用具類まで、トータルでコーディネートできます。店先に置かれていたLAYogaという雑誌はお持ち帰り自由。それがフリーマガジンとは思えぬ洗練されたつくりなのです。
その誌面によると、インド人のみならず、米国人のグル(Guru=ヒンズー教の指導者、教祖的存在の意)も何人もいるそうで、彼らの教えを受けられる特別イベントが各地で開かれています。また、あまたあるヨガ・スタジオのインストラクターを努めるのはそういうグルの弟子たち。平均的な規模のスタジオでは7,8人のインストラクターがローテーションを組みます。古武術の道場で出会った白人のヨガ・インストラクター、ウィリアム・デュプレイさん(29歳)通称ウィルは、“SantaMonica
Yoga”というスタジオで教える先生のひとりでした。スリ・ダールマ・ミットラというグルの弟子であるウィルは、2003年1月にニューヨークでヨガを教えはじめ、同年9月からはLAでクラスを持つようになったといいます。
土曜日の昼下がり、“SantaMonica Yoga”をのぞいてみました。白いペンキ塗りと木目が基調のすっきりとしたスタジオは、お香がただよい、光も程よく調節されて、そこにいるだけで気分が落ち着きます。集まってくるメンバーは、女性のグループが主でしたが、白髪の御婦人、友達同士のような母娘、中には若いカップルも。プログラムは、長い瞑想から始まりました。両手を広げて体内の中心まで深く息を吸い、アーという音とともにゆっくりと吐き出します。そして、ヨガ特有のポーズをつくっていくのですが、それは、経験やコンディションなど個人差があって当然。ウィルは個々に「ゆっくり続けて。自分のペースで、深く、落ち着いて…」と、静かに語り続けます。
「ヨガを教える、というよりは、私の知っていることをメンバーと共有したい、という気持ちなんです。ひとりでも多く、ヨガの世界のドアを開けてほしい。その世界とは、自己を知ること。自己の再評価。心身の解放。といっても頭で考えるのではありません。自ずと、気づく、のです。よく言われる、やせるとか、よく眠れるとかいうのは、自分の声に耳を傾けることで生まれる、あくまで二次的な効果なのです」。
アンビリーバブルなポーズも、精神が肉体を支配できてこその結果だそう。ヨガの世界ではそういうポーズ、姿勢のことをAsanaといいます。ウィルが、それを含むヨガの8つの要素を教えてくれました。すべてはサンスクリット語です。
1.Yama 心・体のコントロール
2.Niyama 〃
3.Asana 姿勢・型(Postures)
4.Pranayama 呼吸(Breathing=Control of Life Force)
5.Prathanaa (Sense Withdraw)
6.Dharana 集中(Concentration)
7.Dhyana 黙想・瞑想(Zen=Meditation)
8.Sanadhi 理解(Realization, Enlightenment)
Asanaはエレメントの一つに過ぎないのです。が、「アメリカではAsanaにウェートを置く傾向が強いです」と、ウィルは少し困った顔をしました。たしかに、エンターテインメント・スポーツが大部分を占める米国ですから、このヨガのアクロバティックな側面は、いかにも喜ばれそう。2月19、20日にはLAのハイアットリージェンシーホテルで第2回インターナショナルYoga・Asanaチャンピオンシップ(第1回は2003年)が開催され、金メダリストが誕生しました。しかし、ヨガに競技性を求める動きが出てきて、かえって本来の意義を守ろうという意識が高まりもしたようです。今後、アメリカのヨガはどの方向に流れていくのでしょう。
ウィルは驚くほど柔軟なカラダで信じられないようなAsanaを見せるのですが、重要なのはそこではないと強調します。
「言葉で表現するのは難しいんですけれど…(笑)、自然と自分の肉体が、すべてがひとつの世界であることを感じられると思いますよ。Yurikoもぜひ、ビギナークラスに参加してみて!」
どんな世界が広がっているのか、まずはとびらを開く必要がありそうです。
Santa Monica Yoga
1640 Ocean Park Blvd.,
Santa Monica,CA 90405
310−396-4040
www.santamonicayoga.com
William Duprey
www.williamduprey.com