このところ毎週末、陸上競技の大会に出ています。ここではなんと2月から屋外トラックシーズンがスタート!するのです。日本では、暦の上では春でも実際は一番寒い時期ではありませんか? でも最近の南カリフォルニアは、「このお天気、あなた信じられる?」と見知らぬおばさんが話かけてくるくらいに暖かく、ランパン&ランシャツでトラックを走ることに何の支障もありません。そういう恵まれた気候のおかげなのでしょうか、先日、13年ぶりに走った1500mレースは当時とほとんど同じ速さ(遅さ?)で、部のコーチにほめられました。
いったい私は大学時代、まじめに練習していたんでしょうか……。その“つもり”だったのですが……。でもたぶん、今の“好調”の理由は単に練習の量や質によるものではない、でしょう。この二度目の競技生活の方が明らかに、カラダに気を遣っている、その効果ではないかと思います。なにしろトシですから、18、19歳のチームメイトたちと一緒に“部活”をエンジョイするには、ケアは不可欠。故障予防のためのストレッチやアイシング、適度な筋肉補強。そして何より、きちんと食べることを、とくに気にするようになりました。これはランナーとしての必要性というより、もっと根本的に、このカラダは自分が口にするものからつくられている、と意識し始めたから。アメリカに来てから、日本では見たこともない真っ赤に着色されたお菓子や油と砂糖に包まれたドーナツ、ジャンクフードの数々……一方で「オーガニック」と表示された量り売りの野菜や雑穀類、乳製品、無数のサプリメントと、ありとあらゆる「選択肢」に囲まれて、広大なスーパーマーケットの中を1周するだけで「しっかり選ばなくてはいけない」という気持ちは芽生えました。
そういうかすかな「危機感」をあおり、私に意識改革をうながしたのは、ランニング仲間のマツイユキコさん。以前、ユキコさんのマラソン挑戦を本欄で紹介しましたが、彼女のライフスタイルは、今注目のLOHASそのもの。(LOHAS = 自分の健康的なライフスタイルに気をつかいながら、同時に地球環境や自然保護に気をつかう人たちの総称。日本語でローハスとかロハスと呼ばれます。「Lifestyles Of Health And Sustainability」、つまり「健康で持続可能なライフスタイル」そのものの事も指します。1998年にアメリカの社会学者ポール=レイ氏と心理学者シェリー・アンダーソン氏が15年にわたる消費者行動調査から提唱した「Cultural Creative」の概念が始まり。
c 2004 Lohas-World. http://www.lohas-world.com/about_lohas.html)
ユキコさんの口からLOHASという言葉が出てきたことはありませんが、自身の健康に気を遣い、マラソンで自己実現を目指し、ハイブリッドカーの購入を考えたりアパレルはパタゴニア社製品を愛用したりと、どこをとってもLOHAS的生活です。でもそれは、ブームになるもっと前から、彼女自身の中から沸き起こったもの。日曜日、一緒にジョギングした後にWhole Foods (アメリカ最大のオーガニック・スーパー・チェーン)でブランチをとりながら、ユキコさんのライフスタイル・ヒストリーを聞いてみました。
そもそもは、東京の証券会社でバリバリ働いていた24歳の時、胃を壊したことがきっかけだそう。「母がガン家系だし、いずれ子供を産む身として、自分のカラダに無責任じゃいけない、と意識するようになりました」。まずはベジタリアンに。でも10年以上前の日本ではまだ“ベジタリアン”の認識が薄く、肩身の狭い思いをしていたといいます。「友だちにいえなかったですもん。魚・肉を食べない、じゃあ食事に誘いにくいでしょう」。
心理学と栄養学を学ぼうと9年前、アメリカに渡ったユキコさんにとってここは、まさに新天地でした。「ベジタリアンが立派に“市民権”をえていたし、ダイエットにまつわるいろいろな方法論があふれていて、さらにどんどん新しい情報が出てきます。発見は、常にありますね。ダイエット=痩せること、じゃなくて、健康的な食生活、ということだし。“不健康”な面の、反作用なんだろうなと思うけれど(笑)」。たしかに、農薬やホルモン剤を使って野菜や果物、畜産物をまるで工業製品のように大量生産したり、質よりもとにかく量!と言わんばかりのサイズの食糧品が安価でスーパーに並んでいたり、肥満率が6割超であったりする国、だからこそ、ディープな健康志向が生まれるのかもしれません。
ユキコさんが“健康オタク”と呼ぶ夫デービッドさん、そして彼のホームドクターだったDr.マーシャルと出会い、彼女はますます「健康生活」を送るようになります。もともと、バイオケミストリーの権威として知られるDr.マーシャルの下で勉強することが、ユキコさんの夢でした。その憧れのドクターが、夫のかかり付け医だったというのですから、運命的。アメリカではかかりつけ医に健康管理を手伝ってもらうのが一般的で、病気や怪我がなくても予防のアドバイスを受けたりしています。ユキコさんは夫とドクターから様々なことを学び、自身の認識不足だった部分や西洋医学の落とし穴に気付いて、日常生活をよりよく改善していきました。基本的に西洋医学の産物である「薬」は化学製品なのでとりいれないそうです。「医者にもらった大量の薬を半分に減らしたら、すごく健康になったという話があるくらい、薬はこわい。結局、それが体の自然治癒能力を殺しているんです。私がこころがけるのは、その本来カラダが持つ能力を高める生活」
彼女のデイリーライフの柱は、オーガニック食品+サプリメント+エクササイズ。オーガニック食品とは「3年以上無農薬、無化学肥料で栽培された農産物、それを原料に加工された食品。米国ではさらに抗生物質・ホルモン剤を使用せず生産された畜産物も含まれる」(copyright2005 lohas club.org.)。そしてサプリメントは年に一度の血液検査で不足栄養素を調べた上でDr.マーシャルが処方するもの。そのサプリメントを朝起きたてに摂り、午前中は加工した食品は避け、生のくだものやナッツをこまめにとって過ごすそうです。朝は遅くても5時に起き、出勤前にジムへ通い、2度目のマラソンを目指してトレーニング。そういうタフな生活ができるのは、体にやさしい「食」を心がけているからに違いありません。
「偏頭痛だったのが解消されたし、これからもっともっと私は健康になっていくと思いますよ。東京にいた時は仕事上、高級で美味しいものをたくさん食べていたけれど、つねに体が疲れていました。口には美味しくても体には美味しくないものを食べてたからですね。カロリーは気にしません。何を食べるか。を、考えて食べよう、ということです」。
ユキコさんには遠く及びませんが、私もかなり“考えて”食べ物を選ぶようになりました。ポテトチップスやチョコのかわりに、ナッツやドライフルーツを。オーガニックの食材を。表示をじっくり読んで決めるので、とにかく買い物に時間がかかるし、値段も少し高めになります。が、これは必要な贅沢。日々元気に過ごすため、10年20年先の健康なカラダのための、ささやかな投資。「そうですよ、病気になってお医者さんにかかることに比べたら、安いもの!」と、ユキコさん。そう言われると、とてもグッドバリューな贅沢、と思えるのです。
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