6月で春学期が終了し、こちらの学生はもう夏休みに入りました。
陸上&クロスカントリー部も、しばし自主練期間。故障者はしっかり怪我を治すようにコーチからの指令が出ています。
実は私もその故障者の一人。シーズン終盤に右脚の付け根を傷めてしまいました。試合直前だったのでコーチにも隠し、痛みを悪化させてしまった私は、ついに校内のトレーニング・ルームに連れて行かれたのですが、怪我の功名というべきか、そこで初めて“アスレティック・トレーナー”のお世話になり、彼らが果たす役割の大きさを、身をもって知ることになるのです。故障を抱えたままなんとかステイト・チャンピオンシップまで行けたのは、トレーナーたちのおかげと言っても過言ではありません。
日本でも、フィジカルケアの専門家の必要性が認識されて、専属トレーナーを置くスポーツチームが増えていますが、アメリカではスポーツ・シーンには必ずアスレティック・トレーナーが存在します。この“アスレティック・トレーナー”とは、“ スポーツ選手の健康管理、ケガの予防、スポーツ外傷、障害の応急処置、アスレティックリハビリテーション及び体力トレーニング、コンディショニング等にあたる(athletic-trainner.netより)人たちのことで、NATA(the
National Athletic Trainers' Association)が認定する国家資格 NATABOC(Board of Certification、専門プログラムがある学校でインターン実習を含めた課程を修了して初めて受験資格が得られる)保有者、公認アスレティック・トレーナーを指します。
プロチーム、大学はもちろんのこと、コミュニティカレッジにもトレーニング・ルームがあって、トレーナーたちが学生アスリートのケアにあたります。競技会の際は、大学の場合は各チームのトレーナーが同行。コミカレでは大会開催校のトレーナーたちが現場に待機し、重要な大会になると各校のトレーナーがヘルプに来ることもあります。すぐにアイシングなどの応急処置がなされたり、競技中のアクシデントにトレーナーが駆けつけて適切な対応をしたりする場面が、大会のたびに見られます。
私の場合は試合直前の窮地を救ってもらいました。右脚に体重をかけられずジョギングもままならない状態から、アイシングと超音波治療、ストレッチングでなんとか“走れる状態”に。そして試合後は、適切な休養期間、ケア方法、練習復帰へのリハビリの方法など、細かなアドバイスをくれました。
奇遇なことに、この留学生ランナーを助けてくれた、わがエルカミノカレッジのトレーナー陣の一人は、日本人女性! 明るい笑顔とジョークも織り交ぜた流暢な英語、そして誠実な仕事ぶりで、ヘッドのマイクはもとより学生アスリートの信頼も厚いトレーナーさんです。そんな彼女に、志のきっかけや、アメリカで資格獲得を目指す道のりについて、うかがってみました。
その人、高橋江里佳さんは、カリフォルニア州立大ロングビーチ校(CSULB)のAthletic
Training Education Programで学ぶ学生さん。彼女にとってエルカミノは 、インターンとしての実習地、ということになります。
志しの発端は、中学2年生の時。自身がスポーツをしていて怪我をし、近所の整骨院でお世話になったのがきっかけだそう。アスレティック・トレーナーという職業の存在を知って以来、それを追いかけて「ひとすじで来てしまいました」と言います。高校卒業後に渡米し、語学学校を経てCSULBに入学。当然、授業はすべて英語。1年次から一般教養に加えて解剖学、生理学、化学や一般的な健康管理など、人体に関することを学びます。
3年次からは、整形外科、テーピング、筋力テスト、コンディショニング、機器を用いた物理療法、生化学、運動生理学、さらにスポーツ心理学やスポーツマネージメントと、心身両面からのケアに必要な知識を習得。そして、大学内での授業に加えて、実習が2年間で1200時間!これをわかりやすく言うと1学期で300時間、つまり1ヶ月でだいたい100時間。でも実際は“残業”“休日出勤”もあります。
「土日は試合があったら3時間前には会場入りしていますね。週末、遊ぶ時間なんてありません〜!よっぽど好きじゃないと、できないです」
CSULBの学生としての実習は、ほかにも、ロングビーチ市のチームに対してやさまざまな競技会においても行います。田臥勇太選手がいたバスケットボールのロングビーチ・ジャム、水泳のアトランタ五輪選考会、パラリンピックの選考会では義足の選手にストレッチングを施す機会もあったと言います。
「アメリカで学んで、経験できることの量が違う、チャンスが多い、と感じます。現場での経験は、まさに百聞は一見にしかず、の言葉どおり。現場に出てさわって感じることが、何よりの勉強」
大学内での勉強とエルカミノでの実習生としての活動で、へとへとのはずなのに、彼女は笑顔を絶やさず、トレーニングルームに駆け込んでくるアスリートたちと向かい合います。
「ここに来る選手たちは弱っているわけです。彼らの抱える問題を引き出すのは、信頼関係がなければムリ。その前提としてコミュニケーション能力はとっても大事です。幸い私は、人と話をするのが大好き。といって、プロフェッショナルとしての線引き、距離感は大切だと思います。大事なのは親しくなることじゃなくて、“自分のことを気にしてくれている”と感じ取ってもらえるような気遣い」
すべてのカリキュラムを修了すると、いよいよNATABOC受験が待っています。3つのパート(Written,
Practical, Simulation)からなり、一発合格は3割強という難関。さらに試験に合格して資格を取得したらそれで終わりと思ったらとんでもありません。トレーナーとして必要な知識・技術分野における最新情報の習得が、義務付けられています。
「だから資格をキープするのがタイヘン。講習会などに出て、ポイントをとらなければなりません。でも、だからこそ最新の医療についていけるんです」
アスレティック・トレーナーは、現場での経験とあわせて常に進化し続ける、という仕組みが、確立されているのです。選手がトレーニングをするのと同じように、トレーナーも自分を鍛え続ける。だからこそ、スポーツ選手を支えるホンモノの“救いの神”となれるのでしょう。
選手が元気になっていくのを見ることや、自分の知識を使って、目標に向かっていく選手たちの手助けができることが、たのしくてしかたがない、と言う江里佳さん。彼女が目指すのは、こんな人。
「選手にとって、困った時に“エリカに聞けばどうにかなる”と思われる人になりたい」
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