カリフォルニアは涼しい風が吹いて、もう秋の色。
毎日、朝から晩までにぎわっていた海辺も、なんとなく落ち着きました。
長かった夏休みが終わろうとしているのです。
アメリカでは、ほとんどの学校が9月スタート。1年生が2年生になるのも、高校生が大学生になるのも、9月。だから8月後半になると、スーパーやデパートは「Back to School 」といって、新学年になる準備をしましょう、というセールをしたりします。
6月中・下旬から9月上旬まで続く夏休み。しかも、その長期休暇の前に前学年は修了しているわけですから、日本の夏休みのような山盛りの宿題がないのです。じゃあ、アメリカの子供たちは夏の間あそびほうけてしまうんじゃないの? と、思いきや、そんなことはありません。
私が所属するエルカミノ・カレッジのクロスカントリー部のコーチ、ディーンの愛息ニッキーは、今年10歳。肌が透きとおるように白くて華奢なプリティ・ボーイはバスケットボールが大好きで、NBA選手の名前や成績をそらで言えるほどのマニアです。そんな彼は7月、8月とバスケットボール・キャンプに参加しました。たくさんの選択肢の中から、1週間のプログラムを3つピックアップ。二つは有名コーチ主催のもの。のこる一つはトーランス西高校のバスケットボール部主催で、高校生プレイヤーたちに、テクニックやゲームのコツを教わったそうです。「来年1月からトーランス市のボーイズチームに入る」というニッキー。このキャンプ参加で、「そのためのいい準備ができた」と、ちょっと自信がついた様子でした。
この長い長いSummerは、学校を抜け出して「学ぶ」時間。そのために、公共団体、高校、大学、軍、会社などさまざまな団体がバラエティに富んだプログラムを用意しています。
ニッキーが参加したバスケットボール・キャンプのように各種スポーツはいうまでもなく、都会の子供たちのワイルド・ライフ体験、ライフガード、海中探検、宝探し、文化的なものでは作文力強化、衛星やコンピューターに関連したハイテク技術にふれるキャンプなど、とにかくありとあらゆる種類のものがあります。私がいつも走っているレドンド・ビーチの浜では3つもサーフィン・キャンプが張られていて、そろいのウェットスーツに身を包んだかわいらしいサーファーたちが、インストラクターを囲んで話に聞き入ったり、砂上で体力トレーニングする姿がみられました。マンハッタン・ビーチでは、バレーボール・キャンプのコーチング・スタッフとして働いている元チームメイトに遭遇したりもしました。
サマー・キャンプは、子供たちの「学び」のチャンスであるだけでなく、インストラクターにとっての貴重な「教える」機会でもあるのです。
夏休み前、カレッジでは「サマー・ジョブ」募集のチラシがあちこちで配られます。学期中は予習・宿題と課題に追われる大学生たちの、夏の間のおしごと体験。
先学期でエルカミノを卒業した元チームメイトのタイラーは、地元マンハッタン・ビーチでライフガード・キャンプのコーチとして、忙しい夏だったそう。
UCサンディエゴ大に編入したチームOGのベッキーは、夏休みを実家で過ごし、私たちのチーム練習に加わっていましたが、8月12日から26日まで、ビッグベアの山中で行われれるランニング・キャンプにスタッフとして参加。学校の先生になるのが夢、という彼女ですが、帰ってきて開口一番「つかれたわー」、と大きなため息をついていました。年齢は12〜18歳、ランニング初心者から1マイル(1600m)を4分46秒で走るツワモノまで、総勢170名という大規模なキャンプだったといいます。レベル別にグループに分け、ベッキーが受け持ったのは7人のビギナーランナーでした。午前中はランニング、トレーニングで、午後は講習会など。もともと、ベッキー自身が子供のころ参加したキャンプだそうで、その時はただ「楽しかった」けれど、今回、インストラクターの側にまわると、「ほんとにタイヘンだった。練習のプログラム中もそうだけど、お休みの日にバスで海に連れていったんだけど、大勢の子供たちを引率するのが、こんなにタイヘンだと思わなかったわ」と、苦笑していました。でも、学校の先生になるのが夢、という彼女には、この“実習”が大きな糧となったことは間違いないでしょう。
ベッキーもタイラーもニッキーも、そんな夏を過ごし、今までとちょっと違う自分になって、新しい学年に上がろうとしています。
宿題がない夏休み。長い長い夏休み。それは、本当の意味で「成長」できる貴重なチャンス。ふだんできないことに挑戦、体験するためにある時間、といえそうです。
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